愛すべきムチャクチャな人たち。

当サイト管理人は、現在は法人化しいてやっておりますが、その昔はいわゆるフリーランスとして活動しておりました。
今思えば実に色んな映像製作会社に出入りしたものです。
「映像制作会社」の雰囲気にはある種の類型があるにはあるのですが、それでも規模の大小、得意分野などによって、実に様々。
以下は、ワタシがお世話になった数多の制作会社の中でも、ひときわ「特異」であった会社の話です。
撮影、編集、と、そこから頂いていた仕事内容は多岐に渡りましたが、常勤してるわけでもなく、ときどきこの社に出向いて、自分の仕事+気が向いたら社員の皆さんの仕事を手伝ったり、などなど、妙にこの業界に浸かったり、逆に妙に慇懃に距離を取ったり、といった部分には一切気を使わず、まぁマッタリとやっておりました。もはやいい思い出であります。
いわば単なる外注スタッフであるので、有る意味全てにおいて客観的な立場でいられたわけですが、こういうスタンスは非常に気楽なものでした。
この会社は、想像を絶するレベルでムチャクチャな人たちばかりなのですが、そういう皆さんを表題のように「愛すべき・・・」という冠付きで表現というか紹介できるのは、この気楽さがあるがゆえ、です。


繰り返しになりますが、ワタシはこういう仕事をしてたりしますので、かなり幅広く、色んな会社様に出向き、もしくは迎えるなどしております。
またかつては某ローカル局でもって情報番組などを作ってましたので、やはりかなりいろんな種類の会社様とお付き合いの経験があります。
しかし、この会社ほどムチャクチャな人ばっかしな会社は、記憶にありません。
単なる外注先でしかない、という気安い距離をキープしてるから良いようなものの、これがもしワタシが正社員で常勤だったりしたら、おそらく2、3ヶ月でノイローゼになっちゃうことでしょう。
幸い、たまーにしか出向いてなかったのでこうして気安く書けるわけですが、世が世なら、と思うとゾッとします。
なにがそんなにムチャクチャか。
まず、社長からしてムチャクチャです。
この会社は20年以上やってる、この業界では稀有なレベルの老舗なのですが、この社長は20数年前にこの会社を一代で築き、50歳をゆうに超える年齢の現在でも、バリバリ現場で陣頭指揮してたりするモーレツな方です。
で、この社長が、気分屋なんて言葉では表しきれないほど移ろいやすい気質の持ち主でらっしゃって、なにが理由・きっかけで機嫌が良くなる・悪くなるか、誰にも予想が出来ない。
猛烈に定着率の悪い会社なのですが、比較的ながく在籍している社員の方に聞くと、湿度の高い日に不機嫌になる確率が高い、とのこと。
機嫌の悪い時の様子は猛烈で、突然怒鳴りまくるは、壁や机を叩きまくるは、そりゃもう大騒ぎなのですが、社員の皆さんは慣れたもんで、皆さんそんな嵐を気持ちよいくらい見事にやり過ごします。
で、やり過ごしてると、大抵の場合いきなり機嫌が直り、職場は皆の笑顔と笑い声で溢れることになります。
そんな図を客観的に見てると、ニンゲンの「慣れ」とは偉大だなぁ、と思わずにいられません。
さらに、重症のアル中である、と。
呑みたい!と思ったその時(その日、ではない、まさにその時)が、呑む時で、また呑むと際限なく呑みまくります。
大抵の場合、一旦呑み始めると、最低でも30時間くらい呑みつづけます。にわかには信じられない話ですが事実です。
大げさではなく・・・例えば深夜1時に撮影が終了し、そのまま打ち上げの呑み会がスタート、終了が翌々日の夕方4時、なんてことがままあります。ワタシもこの3年で20回くらいこういう場に立ち会った事があります。
その間なにが起こってるのかというと、大抵特定のスタッフに怒鳴りつづけてるか、行く店行く店の店員にからみ続けてます。
で、泥酔のまま出社し、自分のデスクで寝て、目覚めるとまた続く、という感じです。
先々週だったか、この社に行った時・・・AM10時頃でしたが、社員数名がテナントのビルの廊下で雑魚寝してて、事務所に入ったら社長が応接テーブルの上、自分のゲロにまみれて寝てた、なんてことがありました。
で、その傍らで、呑み会に参加しなかった社員が、全くもっていつものように粛々と自分の仕事を進めてまして
“あ、おはようございます・・・いや~どうやら昨日呑んでたらしいんですよね~”
“すいませんね~。臭くないですか?いや、そりゃ臭いですよね!ははは!”
とか言ってたりします。
そんな社長の下、社員も強烈です。
ADのOくんは、一切時間を守るという概念がありません。
たまーに、ほぼ偶然の結果として、約束の時間を「守ってしまう」ことがあるのですが、そんな時は、なぜだか機嫌が悪くなります。
それはどうやら、「約束の時間を心ならずも守ってしまった自分に対する怒り」、のようです。
かと思うと、異常に約束の時間にうるさい営業のMさんのような人もいます。
この方は、必ず約束の時間の30分前に来ます。
この会社の提示は9:30なのですが、彼は毎朝必ず8:00には来てます。
たまに9;30近くなって来る時もあるのですが、そんな日は
“いや、今日は、電車が止まってて・・・”
などと、一日中(遅刻もしてないのに)独り言に近い言い訳を繰り返してます。
Mさんは広報関係にも携わってまして、チラシ制作などで社長と打ち合わせる機会が多いのですが、社長はなぜだかこのMさんを異常に嫌ってまして、酔う度に
“オレはMとは口をききたくないんだ”
“おい、H(もう一人のAD)!なんでオマエはオレとMの間に入って話を進めないんだ!”
“オマエが気を利かさないから、オレはいつもMと話しなきゃならなくなるんだ”
と、理不尽としか言い様がない言動でHくんを困らせます。
このHくんは、おそらく世の中の「AD」職の人の中で、最も敵の多いADです。
というか、最も周りから嫌われているADです。
その嫌われ方は尋常でなく、おなじみになっているスタッフや出入り業者で、彼の事を悪く言わなかった人が誰もいない、という、稀有なADです。
彼が買い物等で席を外すと、社内は100%彼の悪口で盛り上がる事になります(当然社長も加わって)。
しかし、なぜかスタッフ連中の呑み会などで一番もてはやされるのも彼です。不思議でしょうがないのですが。
こんな会社であるので、出入りしている皆さんも、非常にクセのある方が多いです。
撮影当日に突然失踪し、そのままインドへ渡ってしまったTさん。
単身南氷洋に渡り、エイと人間のファックシーンを撮影し(具体的内容は不明、また、なんでこんな素材をこの会社に持ってきたのかも不明。なにをどう勘違いしたのか)、持ち込んできたフリーディレクターのBさん。
この会社はどちらかというと中小・・・いや、超零細な部類に入るのですが、そんな規模の会社が20年以上も存続するというのは、ほかに例がないのだそうです。
しかもこの会社はこれほどまでにムチャクチャであるにも関わらず、潰れもせずこれまでやってきている。
その理由は簡単で、この会社には、猛烈な、ある意味病的なまでの、質へのこだわりがあるのです。
社長は要するに変人なわけですが、その偏執狂的気質が最も発揮されるのが、他ならず撮影現場においてで、大げさでなく1カットに丸1日かけるのがザラです。
営利追求のスタンスからみたら、もう無駄なことばっかしやってるわけですが、そういう無駄が20年積み重なった結果、どうやらそれが揺るぎ無い信頼として結実している、ということらしいのです。
ワタシはこの会社とは現在お付き合いしておりませんが、この辺の姿勢には学ぶべき点が大いにあった、と思っています。

コメントする